タコカバウータン

えらそうなことを言っていても気が小さいです。褒められて伸びるタイプです。

あしたから出版社

あしたから出版社 (就職しないで生きるには21)

 今月の塾の課題は〝ブラック企業に勤めるあなたへ〟

 む、難しい……。

 提出したものは↓

 

あしたから、なんでもあり 

 

  「ブラック企業に勤めるあなたに」は、早くそんな会社やめましょう、以外、正直かける言葉がありません。命あっての物種、体と心が壊れてしまわないうちに、とっととずらかりましょう。

 なのにやめないあなたは〝能天気力〟の低い人です。どうにかなるわ、ここよりましよ、と能天気に一歩踏み切る力が足りない。そこでおススメしたいのが、島田潤一郎『あしたから出版社』(2014年晶文社)。

 島田さんは悲惨です。作家志望でしたが27歳で自分の才能に見切りをつけ、いくつかの仕事を転々。三十一歳無職のときに、親友でもあった従兄のケンを事故で亡くします。そのショックの中での転職活動。8カ月で50社からのお断りメール。自分もあの世に行ってしまいよ〜のどん底の中、ケンの両親のために何かをしたい、という気持ちが島田さんの支えになります。ふたりに差し出す1冊の詩集を作るため、誰にも雇ってもらえない島田さんはひとりで夏葉社という出版社を始めてしまうのです。

 ある種夢のような話だけれど、現実なので夢のようには進みません。本はそんなにちゃっちゃかできるものではなく、まして島田さんは何の経験もないど素人。時間だけが過ぎて、手持ちのお金は日々減っていく。あせります。ピンチです。でも、コツコツやっていくしかないのです。埋もれた名著の復刊に活路を見い出し、〝ひとりの読者が何度も読み返してくれるような本〟作りをめざして奮闘。全国各地の書店を営業にまわり、けんもほろろの扱いを受けたりもするけれど、〝好きな本を出版していきたい。結婚とかはできないかもしれないけど……〟という島田さんの言葉に、〝これほど本屋の心を打つ営業文句を聞いたことがありますか〟と感動してくれた書店員もいる。

 今年五周年を迎えた夏葉社。電子書籍の攻勢もあり、町からはどんどん書店が消えていき、島田さんは今もいろいろたいへんだけれど、楽しそう。〝決心さえすれば、だれでも、あしたから、あたらしい肩書きくらいはつけることができる。〟そう思ったとき、島田さんの未来は広がった。あなたの未来もきっと広がります。幸あれ。

 

 講座では、やめたくてもやめられないように絡めとるのがブラック企業など、鋭いご指摘も多発。私の書いた物はやっぱり切り込みが浅いよなあ。それでも何人かの方がよかったものに挙げてくださったのは、この『あしたから出版社』という本自体が持つ力ゆえだと思います。

 字数の関係で書けなかったけれど、島田さんがむかし行きつけの床屋のお兄さんに、なにをやりたいかは、それほど重要じゃない、それよりも、だれと仕事をするかのほうが、よっぽど重要なんだと言われたことを思い返して、ケンとスーパーの駐車場で、クレープかたい焼きを売っているところを夢想するところが、劇中劇みたいな趣があって大好きです。飲みもの買ってこようか、とか、今日はこれでそろそろ店じまいにしようか、とか、そんななんでもないやり取りでも、好きな人と一緒に働いていたら、きっとほんとに楽しいだろうなあ、としみじみ感じられるのです。

 ブラック企業に勤めていないあなたにも、おススメの1冊です。

 

↓ムフフ、サイン本を持っているのだ。サイン、かわいいっ。

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