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タコカバウータン

えらそうなことを言っていても気が小さいです。褒められて伸びるタイプです。

『アンダーグラウンド』、『約束された場所で』村上春樹

アンダーグラウンド (講談社文庫)

 

 

 ハルキ、ノーベル賞取れず。って別にいいじゃん。世界中で翻訳されて、その名はあまねく知れ渡り、ファンがいっぱあい。一億なんて、ハルキには端金。無冠の帝王、ビバ、ハルキ! いや、そんなに大ファンてわけでもないんですけど、私。なぜか、全長編小説読破の道をとぼとぼ前進中。の途上の、これは小説じゃないけど、読んどかなアカンのでは、の2冊でした。

 読了したのはもうずいぶん前で、印象も薄れつつある今日この頃の覚え書き。

 

 『アンダーグラウンド』は、まさかこんな印象を持つとはね、とびっくりした。

 日本にはほんと日々真面目にコツコツ働く人がたくさんいるのだなあと、感謝、って言葉がいちばん近い感覚でしょうか。心洗われる。毎朝、殺人的な混雑の電車に詰め込まれて、始業の30分も前にきちんと会社に着いていて、しっかり仕事をこなしていく人たち。そんな人たちが理不尽なテロに巻き込まれる。

 インタヴューの前にその人たちの経歴、雰囲気や印象をハルキが紹介するのだけど、その筆致がまたいいのですよ。当たり前かもしれないけれど、ハルキが書けばハルキの登場人物のようでもあり、たとえば、もし、私がインタヴューされたとしたら、どんなふうに書かれるんだろう、と想像してみたり。この前段があることで、インタヴューの対象者にぐっと心が近づく。

 オウムによるテロの被害者の記録としてだけでなく、この時代の〝普通の人々〟の記録としても、価値があると思います。

 村上春樹本人がきちんとインタヴューをして、誠意と配慮を尽くしているものね。普通びっくりするよな、村上春樹がやってきたら。みんなサインとかもらったのかしらん。私だったら……もらうと思います。

 

 一方、オウム信者(元&:現)にインタビューした↓

約束された場所で―underground 2 (文春文庫)

 

 

 正直、信者のみなさん(元&現)は、テロ被害者のみなさんと比較すると圧倒的に魅力がない。温厚な村上さんもときにいらつきます。なんだかなあ。

 ただ、この本は巻末の河合隼雄との対談が魅力的。

 たとえば

 

河合 それでね、インタヴューの中にオウムに入ってちょっとやっているうちに体の調子がぱっと良くなったという人がいたでしょう。あれ、僕はようわかるんです。僕らのとこにもそういう人が訪ねてこられます。で、会って話していてこう思うんです。こういう人はたとえばオウムみたいなところへ行ったらいっぺんでばっととれるやろなと。それは村上さん流に言うたらひとつの箱の中にぽこっと入ることなんです。だからいっぺん入ったら、ぱっと治ってしまいます。

村上 わかります。

河合 ところがいったん入ってしまったら、今度は箱をどうするかというものすごい大きい問題を抱えることになります。だから僕らはそういう人を箱に入れずに治ってもらおうとします。そうするとすごい長い時間がかかるわけです。そやけど、僕はこのごろ思うんですよ。長い時間がかかるって、そんなん当たり前やないかと。

 

 簡単にぱっとようなるようなもんはアカン、肝に命じておきます。

 あと、『アンダーグラウンド』についての村上春樹のこの発言↓、なるほどなあ、納得です。

 

 僕がこの仕事から得たいちばん貴重な体験は、話を聞いている相手の人を素直に好きになれるということだったんじゃないかと思います。これは訓練によるものなのか、あるいはもともとの能力によるものなのかわからないんですが、じっと話を聞いていると、相手の中に自然に入っていくという感覚があるんです。巫女=ミディアムみたいな感じで、すうっと向こう側に入っていけるような気がする。これは僕にとって新しい体験だったんです。

 

 本日、お風呂本『愛と暴力の戦後とその後』読了。明日からのお風呂本は『神の子どもたちはみな踊る』。この中の一編をバンド・デシネ化した作品が「MONKEY」vol.4に掲載されているので、先に小説を読んどかなくちゃ、です。ちなみに、残る村上長編は、『海辺のカフカ』と『アフターダーク』のみだ。わーい、めざせ年内全長編読破だぜ、ベイベー。