タコカバウータン

えらそうなことを言っていても気が小さいです。褒められて伸びるタイプです。

落日燃ゆ

落日燃ゆ (新潮文庫)

 

塾の課題です。書きづらかった……。

提出したのは↓

 

つるりんと不可思議 

 東京裁判で絞首刑となったA級戦犯7人のうち、ただひとり文官であった広田弘毅の人生を描く城山三郎『落日燃ゆ』は、私の不勉強、無知も手伝って、なんだかつるりんと体の中に入ってしまった。広田については日本が無謀な戦争へと突き進んでいく中で、暴走する軍部になんら有効な手段を講じることもできず追随した、などの批判も多く、本作品に対しても美化し過ぎだという評価もある。けれども私のような開戦から敗戦に至る時系列の把握すらざっくりでしかない者は、本書で丁寧に解き明かされる広田の外交努力、政治的奔走に、もっとうまくやれたはずというのは酷でしょう、と思ってしまう。You Tubeで関連映像を見ていて呆れたのは、政変のたびに興津から上京して首相を決める、最後の元老西園寺公望の姿だ。(*)着物姿の痩せた爺ちゃんが杖をついてやってくる。憲法上何の権限もないこの爺さんが、首相を選ぶのだ。呪術師か。こんなのまともな国じゃない。広田の苦労が偲ばれる。

 幼少期からの広田の人生を見てきた私ら読者は、東京裁判で一切自己弁護に走らない彼の高潔な態度にも納得だ。あの人ならそうでせう。ただ、なんか広田って人はあんまり立派すぎないか。いやいや、世の中そういう立派な人もいるのです。いて欲しいよな。今いないみたいだけど。

 と完全に城山三郎色に染められちまった私の広田弘毅像だけれど、このつるりん丸呑みな作品の中でふたつだけ、むむ、な箇所があった。

 ひとつめは、ふたつの天皇発言。〝名門をくずすことのないように〟と〝陸海軍予算の必要額をいわれ、首相としての善処を求められた〟本書では概ね、軍の暴走に眉をひそめる穏健で良識的な人物として描かれる昭和天皇だが、このふたつの発言には広田も城山も私も首を傾げたままだ。そもそも軍の暴走を止められる者がいたとすれば、真っ先にこの人であるのにときどき謎の協力。名門はまあ、自分が名門の頂点なわけだから、あれですけれども嫌味だよなあ。平民舐めてるな。意外といけず。

 もうひとつは、妻静子の自死。死刑判決もまだ出ていないのに〝広田を楽にしてあげる〟ととっとと先に死んでしまう。ある意味すごい自信ですけれども(私さえいなければ、あの人はこの世に思い残すこともないわ)なんだかよくわからないメンタリティだ。良妻キャラですけど、私は変な人だと思いました

 

*You Tube 「昭和の宰相列伝1」

 

 今回は課題本を一度しか読めておらず、うむ、やっぱり読みが雑だなあ、と反省。妻静子の自死に関しては、そうだ、変だよと同感してくださる方と、〝愛に殉じた崇高な死〟派のまっぷたつにわかれました。ちなみにこの一家、死刑になる父に死刑ってこんならしいよみたいなことを平然と話す三男もおります。この人、若き日には同時受験した次男(一浪)に合格発表を僕の分も見といてと頼み、ひとり落ちた次男は自殺、しかもその死の直後に補欠合格判明、という悲劇も起きています。へんてこ広田家路線で書いたほうがよかったかなあ。