タコカバウータン

えらそうなことを言っていても気が小さいです。褒められて伸びるタイプです。

インタビュー 30歳の肖像

西瓜糖の日々 (河出文庫)

 

インタビュー講座の課題です。

オリジナルは本文16文字×50行の縦書き。一度完成したと思った原稿から最低5回は書き直す(推敲ではなく書き直しです)という指令が下ったのでありました。

↓は書き直し後のものです。

 

福田昌湜さん  1949年生。

現在は東京と山梨で画廊を経営。長身痩躯に長めの白髪をひとつに結ぶのが長年のスタイル。

 

  山梨から上京して5年通った大学は、毎週ゼミで飲み明かした。四年のときに美術学校にも入って、その時点でもう作品作って食いつなぐんだ、就職なんかとんでもないと(笑)。卒業後は六年ぐらいフリーターだね。

 実家の飲食店を手伝ってたから、やるんだったらそういう仕事かなと。当時の中央線の喫茶店文化の影響もあったし。29歳の秋に、大学の同級生だった妻と、コンテンポラリーアートを展示する喫茶店、西瓜糖を開いた。西荻の飲み屋で知り合った人にデザインを頼んだんだけど、当時ちょっとない、ガラス張りのかなりモダンな内装で。床は黒でテーブルはステンレス。それで場所が阿佐ヶ谷でしょ。今よりずっとローカルな。原宿や青山だったらまだありだったと思うんだけど。

 だから最初は全然人が入ってこない(笑)。でも、あんまり心配はしてなかった。日本の発展とともに大きくなって、オリンピックもビートルズも大学紛争も経験して、ため込んだものがけっこうあったから、自分の中に。

 西瓜糖を開いて初めての誕生日が30歳。客は順調に増えたね。展示と内装、かけてる音楽と置いてる雑誌で人が来た。当時、音楽はニュー・ウェィヴ、絵はバスキアやキース・ヘリングのニュー・ペインティングで、袋小路から一気に何をやってもOKな空気で。コンテンポラリーは時代感覚がバチンと反映されるのがすごい。学生でもけっこうおもしろい作品作ってたし、時代とシンクロして展示作家がつながっていった。

 ある種の情報基地みたいになるでしょ、店が。そこにおもしろい人が集まってくるわけじゃない、吸い寄せられて。ただ、コンテンポラリーな人とか東京ロッカーズ系ばっかりでみちっとなっちゃうと(笑)。普通の人が交じってないとつまらない。

 店が自分にとってのひとつの「表現」で、ため込んだすべてを出し切って、手応えもあった。ここで人生が決まったって感じだったね。

 

 テープ書き起こしの時点で1万字超のものを800字にするのは、切る、削るというより、水槽の中からエッセンスを指で掬い上げるような感覚でした。

 5回の書き直しは、最初、5回同じ文章を写すのに近いことになるのではないか、なんて思っていたのですが、甘い、甘い、自分でも驚くほど変わって、推敲じゃない書き直しの威力を知りました。奇数回はMac、偶数回は手書きにして、意外やなんだか楽しい経験。どんなものでもこうやって5回は書き直せば、ちったあましになるのだろうなあ。先生にも(初回分と5回書き直し後の両方提出)書き直したほうが断然よくなったと言っていただきました。よかた、よかた。

 なにしろ1万→800なので、せっかくのおもしろいお話泣く泣くカットがたくさんあります。近日中にロング・バージョンもまとめられたらと思っています。