タコカバウータン

えらそうなことを言っていても気が小さいです。褒められて伸びるタイプです。

永遠の0

批評塾の課題です。

 

永遠の0 (講談社文庫)

 

提出したものは↓

 

近視眼的単純明快

 

 なんだろう、このもあぁっといや〜な感じ。百田尚樹『永遠の0』のどこが清々しいんだよ、児玉清、と大はしゃぎの解説に文句のひとつも言いたくなる。

 主人公の宮部久蔵は確かに読者の興味を惹くに足る人物だ。妻子の下へ生きて帰りたいという彼の願いは現代人から見ればしごく当然で、そんな普通の感情を抱くことさえ許さない軍隊の狂気が、ひとりまっとうな宮部を通して浮かび上がる。

 また、いくつかの戦記物のコピペという批判もあるようだが、証言者たちの語る海戦、空中戦の実態は、爆撃機と戦闘機の違いも知らなかった私には興味深かったし、海軍における階級差別の激しさ、日本軍のあらゆる面における人命軽視なども繰り返し語られ説得力を持つ。

 だからわざとらしい展開の数々もそこはエンタメしかたないかと耐えるわけだが、戦後宮部の妻がやくざの囲い者(!)にされ、そのやくざを殺して彼女を救ったのが宮部の孫が訪ねた証言者のひとり、までやられちゃうと、これは安手の昼ドラかと呆れるしかなかった。

 さらに世の中こんなに簡単?と問いたくなる、なんとも単純な善悪の二項対立。〝善〟は雄々しく戦った兵士たち、一生懸命頑張る名もなき人たち。〝悪〟は愚かで無謀な作戦によって部下の命を空費した軍の参謀と、戦中は戦意高揚、戦後は一転して国民に愛国心を捨てさせる論陣を張った(と決めつけられちゃう)新聞だ。戦争に負けたとたんに特攻隊員を戦犯扱いしたのは名もなき一般大衆のはずだけれど、作者に言わせればそれもすべて新聞のせいなのだろう。

 この作品をぼんやり読んでいると、まるで日本とアメリカの2国間のみの戦いだったかのようだ。主たる戦場は南太平洋や東南アジア諸国なのに、他国による戦争によって祖国を荒廃させられた人々の姿は一切作者の視野に入っていない。「祖父たちは何と偉大な世代だったことか」と語り手は言うが、少しは他国の迷惑も考えろ。真に偉大なのは戦後70年近く、日本が再び戦争を起こすことなく、宮部のような無念の死を選ぶ人を生み出さなかったことだ。

 

 例によって締め切りギリギリに時間に追われて書くことになり(客観的に見るととっても暇人のはずなのにねぇ)、う〜む、まとめきれなかったなあ。

 他の受講生の方の「この小説には被害者としての視点しか描かれていない」という指摘が、私の不快感のいちばんの源泉だと気づく。

「悪」は外側にあって、雄々しく戦った一般兵士、戦争に耐えた一般大衆はひたすら被害者、という感覚で、一片の〝責任〟も感じることがないなら、またぞろ、同じことを繰り返すぞ、百田っ! そうしたら田母神みたいなのが参謀トップで、またぞろバカ作戦連発。死屍累々、無念念々。

 ほかにも狂言回し役の姉弟、とりわけ姉がバカすぎてうざい、新聞記者がこれまた信じられないほどバカ、とか、アメリカ軍に関してはほとんど礼賛で、ほんとこの手の右翼はアメリカ好きだよなあ、とか800字では盛り込めないこといろいろ。

 零戦に関する記述はいろいろ勉強になり、ついでに昨今ジブリでおなじみの堀越二郎についても少し調べてみた、って Wiki 見ただけなんだけど、「零戦の防弾性能について堀越は、戦闘機には優先順位があり、防弾がなかったのは当然とし、後の零戦に対する防弾装備は、未熟者が増えたせいで、不相応なものだったと回想」未熟者が増えたのは、防弾がない上、長時間の飛行が可能な零戦で、極限状態に追い込まれつつ戦って、熟練搭乗員のほとんどが死に絶えたせいじゃないかと、私の腸煮えくり返り、そこんとこどうよと、『風立ちぬ』(ただし、零戦の設計以前しか描いていないそうだ)見ようかなと。この発言に対して他の受講生の方から『風立ちぬ』はクリエイターの業を描いているのだと指摘あり。Wiki には兵器である戦闘機などが好きな自分と戦争反対を訴える自分という矛盾を抱えた宮崎駿の姿が投影されているとの記述。ただ、実際乗るほうはまさに命かかってんだから、そこを優先しないというのは、結局搭乗員を消耗品と考える軍上層部と同じじゃん、と私はまだまだ堀越二郎に納得いかず。ま、映画に関してはとにかく見てから文句言うなら言えよ、でございますが。

 それにしても悩ましいなあ、都知事選。マキャベリズムに徹するしかない、とは思うのだけれど。しかし、都知事選の田母神の得票数で、東京に今どれだけクレイジーな人がいるかがわかっちゃうね、怖いね。

 あと、つくづく、百田も受賞の本屋大賞ってなんやねん。全国書店員が選んだいちばん! 売りたい本」をキャッチコピーとして掲げており、書店員こそが(商品と顧客という形で)本と読者を「最もよく知る立場」にあると位置づけとか言ってるけど、ベストセラーの後追いみたいなのばっかり。〝いちばん!売りたい〟ってすでに売れてるじゃん。書店員のレベルの低さしか伝わってこないじゃん。恥さらしじゃん。1回くらいそれこそ書店員のプライド見せて、シブいっと唸らせる選書してみろよ、と本屋のバイト経験のある私は悔しく思うのです。