タコカバウータン

えらそうなことを言っていても気が小さいです。褒められて伸びるタイプです。

『体の贈り物』 レベッカ・ブラウン

  今月の塾の課題は 「いまを生きるための一冊」

〝希望がみえない今日この頃、私たちに必要なのは、どんな本なのでしょ
う。〟

 この問いかけを真っ向から受け止めちまった私は、

宝物のように大切な1冊、レベッカ・ブラウンの『体の贈り物』を選びました。

 

体の贈り物 (新潮文庫)

 

 

以下が提出したものです。

 

数に還元されない

 

 ファシズムって、こんなふうにやってくるものなのかと、心の隅がいつもヒリヒリしている今日この頃。〝いまを生きるための1冊〟とは、波に呑み込まれそうな私がつかむ浮き輪だろうか。

 

 レベッカ・ブラウン柴田元幸訳『体の贈り物』(2009年新潮文庫)の語り手は、エイズ患者を世話し、看取るホームケア・ワーカー。彼女と患者たちの〝現場〟が11の「贈り物」として描かれる。

 

 9つめの「姿の贈り物」は〝今度の人は見た目にいちばん不気味だった〟と始まる。話者はすでにベテランのホームケア・ワーカーだが、体中を腫れ物で覆われた、気休めに軟膏を塗る以外手の施しようのない患者にひるむ。〝はじめて行って、瓶のふたを開けたとき、誰か他人の指が軟膏をすくい取った跡が残っていた。なぜそれを見てあんなに怯えたのか、自分でもわからない。でも、とにかく私は怯えた。私はその人に触るのが怖かった。その人を見るのも怖かった。〟

 

 それでも話者は患者の全身にていねいに軟膏を塗り、できるかぎり自力で食べようとする患者を手伝う。患者は律儀に礼を言う。汗ばんだ体を拭いてあげて、また軟膏を塗る。

 

 二度めのときには、部屋に飾られた絵がきっかけで、患者はアフリカで教師として働いていたことを語る。〝でも何だか、そこに四人の人間がいるような気もした。普通に話している人間が二人と、軟膏で他人の体に触れている一人と、腫れ物のできた体を持った一人。〟そして次回の予定を告げると〝「僕の仕事のこと、訊いてくれてありがとう」と彼は言った。「今度は君のことを訊かせてください」とても礼儀正しい言い方だった。〟

 

 三度め、患者はすでに危篤状態で、まばたきでしか意志を伝えることができないが、話者は軟膏を塗りながら、前回の約束通りこの一週間何をしていたかを話し、患者がちゃんと聞いていることを確信する。そして家族が駆けつける前に、患者の髪をきれいにとかしてあげる。

 

 体中腫れ物だらけになって軟膏まみれでも、ノーブルに死んでいく人もいる。この小説では個々の死が、ひとつひとつ屹立している。下衆な政治家の手が、私たちを十把一からげの算盤勘定の数値に貶めようと伸びてくるとき、この何者でもない人たちの死の物語は、どんどん沈んでいきそうな心をぐっと支えてくれる。

 

 

先生の評は「文学の力とはこういうものなのだな、と思わせてくれる小説と書評です。」やたーっ!その後もほめていただき、「未読でしたが読んでみます。」やた、やた、やたーっ!

 他の受講生の方もけっこうな数、読んでみたいと言ってくださいました。よかた!

 

『体の贈り物』は私の中で、人生でそう何冊も出会えるもんじゃないレベルの、特別な小説です。

 古本屋で見つけてハード・カヴァーも買いました。

体の贈り物

 

 

今回原書も買って、1つめと9つめの作品は読んだ。

The Gifts of the Body

 

 こんな平易な英語でこんなにも深いことが書けるのかと驚嘆。

で、私はこんなにレベッカ・ブラウンが、『体の贈り物』が好きなんだぁぁ!と

塾で見せようとわざわざ3冊とも持っていったのに

見せるの忘れた。とほほ。