タコカバウータン

えらそうなことを言っていても気が小さいです。褒められて伸びるタイプです。

アンのゆりかご 村岡花子の生涯

f:id:hirokikiko:20140503073136j:plain

今年最後の塾の課題

読み終わってリアルに吐き気がしました。

日曜に読了して木曜になってもまだ体に怒りがたぎっておりました。

心底嫌いな本なので、本の写真も載せたくないわ。

で、砂糖煮にされた方の写真を載せときます。

以下が提出したもの↓

 

祖母の砂糖煮

 

 村岡恵理著『アンのゆりかご』のプロローグの一節、〝花子を慰めるのは、戦時下にあってもみずみずしい少年少女の感受性だった。(中略)その健やかな精神に触れるたびに、花子は生きていく力を与えられた。〟を読んで、イヤな予感がした。なんでしょう、このベタな文章、紋切り型の少年少女像。文部省推薦児童文学臭。

 が、幸いに、貧困家庭からひとり恵まれた教育を受けることになる村岡花子の人生自体が『あしながおじさん』さながらで、しばらくは楽しい。婚前に夫と交わしたラヴレターはちょっと気持ち悪いけど。と、ここで、この妙に生々しい手紙のおかげで、なんだかずっと書き割りみたいなものを見せられてきたと気づく。ナマモノ不足。東洋英和はあくまでも清く美しい楽園、女性宣教師はひたすら文化であこがれ、自立した花子はバツイチだけど素敵な夫もゲット! 悪役は職場の同僚松木女史しかいないぜ。人間ってこんな一面的なものでしたっけ?

 そして、戦争に突入。〝もんぺ姿で連日のように大政翼賛会大日本婦人会、(中略)などの会合や、講演に狩り出された。〟と、著者は花子の戦時中の好戦的、大政翼賛的な言動には一切触れず(注1)、しかたなくやっていた感を醸す。それでもまだ言い訳が足りないと思ったか、田辺聖子まで動員。〝女性史家には往々にして、現代感覚で歴史を裁く考え方もあって(中略)それは世の流れの烈しさを思い知らぬ人の、のんきな発想であろう。国の運命というものも業のようなもので、そこへなだれこまずにいられぬような時の流れ、というものもある。〟(注2)業って言っちゃいました。これじゃ反省しないし、同じこと繰り返すよ、業だもの。確かに現在という安全地帯から、当時の人たちの言動を批判する際には、いろいろ考慮すべき点はあるだろうけれども、にしても。

 本書で花子の孫が披露する戦争感はまるで『永遠のゼロ』だ。悪い軍部がいて、自分たちは巻き込まれた、しかたがなかった、被害者だ。でも、こっそり翻訳していたうちのおばあちゃん、えらい!って言われても感動できるかい!

 これだけの歴史を生きた祖母を材料に、批評性という庖丁を持たぬ著者は、とりあえず祖母の好物の砂糖を大量投入し、甘々に仕上げて、素材も台無し。

 

  • 例を挙げれば、〝私は戦争の文化性を偉大なものとして見る。平時には忘れがちになつてゐる最高の道徳が戦争に依つて想起され、日常の行動の中に実現される〟〝母は国を作りつつある。大東亜戦争も突きつめて考へれば母の戦である。家庭こそは私どもの職場、この職場をとほしての翼賛こそ光栄ある使命である〟『女たちの戦争責任』(岡野幸江、長谷川啓、渡辺澄子、北田幸恵・共編/東京堂出版)より。
  • 『ゆめはるか吉屋信子』(田辺聖子著/朝日新聞社

 

 怒りに任せて一気に書き上げた、というか、腹立ちすぎて書いて怒りを吐き出さないとどうにもならなかった、て感じでしょうか。

 民間人の戦争責任、というのは非常に難しい問題、と大勢の人が口をそろえて言うわけですが、難しい問題、微妙な問題、だからスルーしていいのか。一方的な断罪も、本書の著者が行ったような姑息で卑劣な隠蔽も、思考停止という点では同じです。

 私はほんと、田辺聖子に問いたい。あれは業だ、時代だ、しかたがなかったんだと、侵略された側の人に向かって言えるのか、世界に向かって胸を張って言えるのか、ユダヤ人にアウシュビッツは業よと言えるのか。のんきなのはあんたのほうだよ!

 敗戦を終戦と言い換えた私たち日本人は、都合の悪いことには全部天災みたいに降りかかってきたことのようにとらえて、自らの責任を問わない。そら、みんなしてしょうがなかった、だもの。天皇の戦争責任なんか問えないよ。そもそも責任って発想がないんじなゃないか。

 そして、もうすでに戦前かもしれない的、キナ臭い状況にある今も、歴史から真摯に学ぶ姿勢のかけらもない、こんなビバうちのバアちゃん本がのうのうと。

 村岡花子という当時の庶民階級の女性としては異例の、特別な教育を受け、知識階級の女性の最前線にいた人が、なぜ熱く軍国主義を支持したのか? 中島岳志は彼女は転向したわけではなく、彼女の書いた心温まる童話と全体主義はつながっていると指摘しているけれど、実際どうなんだろう、てなことは、もちろん孫は一切考えません。いやはや。

 ほかにも腹立つことはいっぱいの本なんだけど、もうとにかく早くこやつから離れたいので以上といたします。

 なにか毒消しになるような、美しい本が読みたいなあ。