タコカバウータン

えらそうなことを言っていても気が小さいです。褒められて伸びるタイプです。

2015年 本のベストテン

On Reading

番外のアンドレ・ケルテスの写真集

さまざまな読書する人の姿が収められています。

 

人生最悪の1年は、読んだ本の数も当然例年より少ないのですけれども

 

1.『ゆかいな仏教』橋爪大三郎 大澤真幸

ゆかいな仏教 (サンガ新書)

ええっー、仏教ってそういうもんなんですかー、と目から鱗がボロボロボロボロボロ〜

なんかもう宗教とも思えぬ〜 新書だけど深いっ。

これをお風呂本にしていた私は間違っている。

彼が亡くなったから仏教に走ったわけではなく

これは存命中に読んでおります。

2度も3度も読み返さなくっちゃなのですが、このおふたりのキリスト教本もあるんで、まずそっちかな。

ちなみに、密林がお坊さんを宅配するというのを(それも世知辛い話だけど)仏教界の一部が「宗教の商品化」と非難しているそうですが、ちゃんちゃらおかしい。元祖「宗教の商品化」はあんたらじゃないかい。戒名とかお金でランクつけちゃってさ。この本を読んだ上で自分たちのやってることきちんと説明してほしいわ。もちろん、世の中には立派なお坊さんもいてはるとは思うし、大学の同級生でとってもいい人がお坊さんなんだけど。

 ほんの数日だけれどタイの田舎の村で過ごしたことがあって、村のお坊さんのひとりは親と喧嘩して家出して、数年後に都会から子持ちの女性を連れ帰ったけれど、結局その人は貧乏農家がイヤで子供を連れて逃去り、彼は傷心の出家。もうひとりはシンナー中毒で村の入り口の大事な祠を破壊した元不良。もちろん村人全員がそういう事情を知っているけれど、出家してしまえばみんなお坊さんとして敬意を払い、お供えをする。評価は「食べ物に文句言わないのがいい」(タイのお坊さんはお供えで集まったものを食べています。自分で手を下すわけじゃないので肉も魚もOK。煙草もOK。逆に絶対ダメなのはお酒&女性。厳しいお寺だと女性とは接触はおろか会話も、目を合わすのもダメ。)傷心出家の彼はお坊さんでいるあいだに高卒の資格を取って(なんかそういうシステムがあるらしい)警官を目指すのだそうです。本当に仏教が生活に根づいてシェルターになっているんだなあと思いました。そらタイの仏教だって、いいことばかりじゃないんだろうけどね。

 

2.『地図のない場所で眠りたい高野秀行×角幡唯介

地図のない場所で眠りたい

 

タイトルから猛烈ロマンティックでシビレる探検家ふたりの対談集。

ちょっと常軌を逸した探検ぶり。

亡くなった彼が本書も含めて、おふたりの本を繰り返し読んでいました。

海外旅行、というか実質ダイヴィング合宿だけど、それも私が強引に勧めて始めたことで、やってみたら大好きになったけれども、到底ひとり旅すらするようなタイプじゃなかったのに、どうしてあんなにこの人たちのハードな探検に惹かれたのだろう。

しかも、命が消えていこうとするときにさえ。

我が家にはおふたりの著作がどーんと揃っているので

今年はたくさん読んで彼の心の謎にも迫りたいと思います。

 

3.『ぼくらの民主主義なんだぜ』高橋源一郎

ぼくらの民主主義なんだぜ (朝日新書)

 

 

ものごとをていねいに解きほぐして柔らかく考える道筋を示唆してくれる人として

私は高橋源一郎を圧倒的に信頼しています。

天皇制は日本にぜひとも必要というのなら

公選制にして高橋源一郎がなればいいと思うよ。

がんばれ源ちゃん天皇

ってなんかすごいこと言っちゃいましたかしら。

 

4.『円卓』西加奈子

円卓 (文春文庫)

 ブログに書いとります。

hirokikiko.hatenablog.com

 

5.『うほほいシネクラブ』内田樹

うほほいシネクラブ (文春新書)

 

帯に〝怒濤の187本! 圧巻の400頁 !! 〟 

読み応えたっぷりで、鑑賞ガイドとしての実用性も高し!

ドッグイア(本当はこれ嫌いだけれど、お風呂本だったから手元に付箋がなかったのだね)部分をいくつか紹介いたしますと

 

パッセンジャーズ

 飛行機事故で奇跡的に生き残った5人の乗客と、そのトラウマ・ケア担当のセラピスト。「大どんでん返し」の後味は意外なほど切なく、爽やか。

——こりゃ観たくなりまする。

 

黒澤明『乱』で主人公が死んでほっとした(もうあの芝居を見ないですむから)、から仲代的=新劇的=デカルト的演技術の対極としての、怖いくらいに上手い俳優タランティーノの「とってつけたように不自然」な喜怒哀楽の演技(こそが上手さの所以)へと話は発展し、さらに三種類しか表情のない佐田啓二の〝寒気がするほどリアリティがあるのは「何も考えていない顔」〟 〝これは『秋刀魚の味』で佐田啓二以外誰もできない壮絶なのを観る事ができます〟ときて、これはもうまたまた『秋刀魚の味』を観たくなります。

 

サム・ペキンパー『鉄十字軍』(邦題『戦争のはらわた』)

〝ロシア戦線の悪夢のような後退戦を「ドイツ軍の側から」描いた映画〟

〝戦争は無意味である。だが、そこで死ぬ人間は「自分の死が無意味だ」ということを受け入れるわけにはゆかない、といういちばん「あたりまえ」の事実を語ることがいちばんむずかしい。この映画はそれに成功した希有な例である〟

——必見感ぷんぷん。

 

『バルカン超特急』

 クリケット以外のすべてのことに対する組織的な無関心ゆえに、ふたりの紳士然とした英国人が、意外や危機的状況下で適切な判断と果断な行動を誤らない、のだそうで、その紳士見たし。

 

『オープン・ユア・アイズ』

〝不条理なまでにご都合主義的なせいで、映画が逆にある種のリアリティを獲得するということがある。「ありえなさ」が現実の不条理と同程度に不条理だとそういうことが起こる。〟どんだけご都合主義やねん、という興味で見たくなる。

 

ちなみに本書の『サイコ』の項で挙げられていた内田樹氏の二大愛読書『体内の蛇』と『オリジナル・サイコ』(ともにハロルド・シェクター著——〝20世紀アメリカを代表するバカ学者なのかも〟by 内田樹)をさっき密林市場で注文してしまいました。 とほ。

 

6.『野火』大岡昇平

野火 (新潮文庫)

 

やっぱり心に残るのは、あの不思議に明るい開放感。

ブログに書いております。

hirokikiko.hatenablog.com

 

7. “A Grief Observed” C.S.Lewis

A Grief Observed (English Edition)

 

ナルニア国ものがたり』で有名なC.S.ルイスが妻を失った悲嘆を綴ったもの。 

『悲しみを見つめて』のタイトルで翻訳もありますが

原文のタイトルのニュアンスはもう少し固い感じ。

内容も悲しみを語るわけですから冷静、というのとは違うけれど

感情の吐露とも違う。

まさに自らの悲嘆を観察(observe)している趣があります。

ルイスと私ごときを比較するのも僭越ですが

年を取ってから相手がガンとわかっていて結婚したという共通点があり

神学者と信仰なき者という決定的な違いも

神学者でありながら神に対して真っ向から怒るルイス

(存在することは認めるけれど、なぜそんなに性格悪いんだーっ的な)

に妙に共感できたりして

そのほどよい理屈っぽさがスパイスとなって

理屈っぽい私の心に沁み入ります。

 

痛いほど生々しい悲しみと

その中での発見が交錯し

 

喉が渇き切ったときにごくごく飲んでも、飲みものの美味しさはわからない。

会いたいと激しく思う心が鉄のカーテンを引いてしまう。

会いたいと叫ぶ声で死者の声がかき消されてしまう。

ふと悲しみが軽くなったときにこそ、バリアがなくなり

死者のそこはかとない気配が出現する。

 

そんなふうに書く一方で

 

悲嘆は長く続く谷のようで

曲がりくねった角をひとつ曲がるたびに

まったく新しい景色が現れる

 

と悲しみの際限ない訪れを記し

 

君が去るときにどれだけのものを奪っていったわかっているかい?

私の過去、ふたりが共有しなかったものさえも剥ぎ取っていったことを

 

と嘆く一方で、

 

電話や電報で手短に用件を伝えてくるような

思ってもみなかったようなビジネスライクな形

それでいてとても親密で明るい

死者との交信

 

を語りもします。

 

その悲しみに共鳴し

発見に力づけられました。

また読み返そう。

 

8.『炎上する君西加奈子

炎上する君 (角川文庫)

 

短編集の西加奈子は長編とはかなり異なるテイストでした。

いちばん好きなのは表題作の「炎上する君」

今、ぺらぺらと読み返してみましたが、いや、かなり好きです。

つか、浜中、手芸をやめた(あり得ないことだけど)玉坂部長みたい。

なのでこの一編を始めからきちっと読み返したら、感動したなり。

  

9.『戦争プロパガンダ10の法則』アンヌ・モレリ著 永田千奈訳

文庫 戦争プロパガンダ10の法則 (草思社文庫)

 

ブログに書いとります。

hirokikiko.hatenablog.com

 

10.『魔王』伊坂幸太郎

魔王 (講談社文庫)

 

これまたブログに書いてます。

hirokikiko.hatenablog.com

 

次点ナイルバーチの女子会』柚木麻子

ナイルパーチの女子会

 

読みだしたら止まらなくなって一気読みした作品ですが

不思議と残ってない。なぜだ?

これを読み返そうという気持ちにはなれないので

柚木麻子の別の作品を読んでみませう。