タコカバウータン

えらそうなことを言っていても気が小さいです。褒められて伸びるタイプです。

エマニュエル・トッド講演会

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スミマセン。生来の貧乏性で、一字一句聞き逃すまい〜で、ま、聞き逃してはいるのですが、ものすごく長いっす。

 1月28日、慶応大学三田キャンパスで行われたエマニュエル・トッド講演会へ行って来ました。恥ずかしながらトッド氏に関しては世界的に有名な学者という以外、何の予備知識もない真っ白(純然無知)な状態で、タダだし行ってみよ、と好奇心の赴くままのがめついおばちゃんな私でありました。すぐ前を平川克美さんが歩いていました。
 
 

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人生初慶応大学。意外と素敵な建物はなくて、ま、通り道しか見てないけど、唯一この灯台みたいなのがお気に入り。


 まず最初に30分ほど、最新刊『シャルリとは誰か?――人種差別と没落する西欧――』(文春新書)の翻訳者でもある堀茂樹氏によるトッド人類学の紹介解説があり、その後トッド氏登場! いでたちは地味ですが、なかなかにカッコいい。きっと平凡に見えて高級素材をお召しなのでせう。そして、語りだすや、よく通る声、エクセレントな滑舌、緩急強弱自在の〝雄弁家〟ぶり。あ〜、私のフランス語がここまでポンコツ錆々でなかったら、聞き取りやすいとか言えたのに〜、悔しいっす、勉強し直します、といきなり後悔の大波、はさておき。

 テーマは「宗教的危機とは何か」
 フランスでは今日、宗教的なものが固定観念化している。それは呪われた宗教=イスラム教であり、ファナティック、テロリズム、無知蒙昧、女性の地位の低さなどのイメージが定着している。
 フランス市民であるトッドは宗教的感情の消失、脱キリスト教化、カトリックの崩壊を研究してきた。

1.18世紀半ば カトリックの約半分が崩壊 パリ盆地、南イタリア、南スペイン

2.1870〜1890 プロテスタンティズム衰退 イギリス、ドイツ、スカンジナビア

3.戦後 残存カトリックも衰退 ベルギー、オランダ、ババリアアイルランド

 ちなみにトッド氏、原稿、メモなど一切見ずに、すらすら話されているように見えました。

 事実を追っていくのがトッドの方法論
 宗教の衰退、危機は同時に転機であり、新イデオロギーを生み出す。

1.1730〜40 パリを中心にカトリック崩壊→半世紀後フランス革命 カトリック的価値の転位

2.プロテスタントの衰退→ナショナリズム
 ルター主義の崩壊地域はナチズムの広がった地域と重なる。
 ヒットラーに投票した地域はルター派の地域
 集団的的信仰としての宗教の崩壊後しばらくすると、新イデオロギーが出現。
  しかもそれはしばしば経済状況とほとんど無関係に起こる。

3.第3の脱宗教化 20世紀末〜2010年
 カトリシズムの残っていた周縁地でさえカトリシズムの実践(司祭になる、教会へ行く、など)がなくなる。ベルギー、オランダ、アイルランドですら。ポーランドでは共産主義への対抗手段であったカトリックが消失。

 フランスは2010年以降組織としての宗教的実践のない国に。
戦後のフランスは、すなわちトッドが生まれ育ったフランスだが、宗教的に安定した時期であった。周縁部のカトリックとパリ等中心部の世俗が、対立しつつ補完し合っていた。中心部の人々は信仰のない、形而上的パースペクティヴのない状態を、カトリックの無知蒙昧な世界から解放されたと捉え、満足していた。
 統計地図によれば、フランス共産党の勢力分布図はカトリシズムの分布図が逆転したもの。両者が戦い、補完し合い、バランスが保たれていた。その後のフランスの政治的推移は、カトリックの崩壊後、対抗相手を失ったフランス共産党も崩壊し、社会党カトリックの信仰を集団的に失った地域で勢力を伸ばして、フランス左派の主流となる。

 テロ問題、イスラム教問題が前面に出るずっと前からフランス社会の推移を研究してきたトッドは、多くのコメンテイターと異なる見解を持っている。
 現在のフランス国民中、元々イスラム教徒であった者は5%に過ぎず、しかも熱心な実践者はマジョリティではない。なのにそれを社会的に恵まれない階層の問題と結びつけるのはおかしい。フランスはイスラム教を意識しすぎ、イスラム教への強迫観念に取り憑かれている。
 どこに現代フランスの問題があるかといえば、宗教的失を危機として意識化せず、むしろ古くさいカトリシズムからの解放を喜ぶという無意識のメカニズムだ。この心理的錯乱が、消失を埋めるスケープ・ゴートとしてのイスラムへの強迫観念を生み出している。今やかつてないほど無神論を公然と主張する人々が出現している。あたかもフランス革命前夜の、脱宗教を誇った人々のように。

 トッド自身はカトリシズムとは無縁の出自であるが(ポール・ニザンの孫であり、レヴィ・ストロースの親戚という、ヨーロッパ知識階級のユダヤ系名門の出身)、人々が自分たちの状態に無自覚である点に危機があると見ている
 抽象論ではなく統計的に検証すると、11月のシャルリ・エブド事件後のデモには400万人が参加し、リベラルな価値観、表現の自由を訴えたとされるが、真のテーマはマイノリティの宗教の教祖マホメットを風刺する権利、風刺すべきだという主張だった。実際、かつてカトリシズムが強かった、1960年代まで残っていた地域ほどデモの動員率が高く、早くからカトリシズムから脱却していた中心部の約2倍である。
 だが、危機は宗教的なものだけではない。経済的な問題が重要だ。フランスは先進国で唯一、失業率がコンスタントに10%を超えている。それはつまり、有効な対策を打とうとせず、その状態を受け入れているということだ。若者を教育しつつ、職を与えないのだ。ただし、国の安定にとっての最大の脅威は経済だけではない。ドイツの歴史を見れば、経済的にひどい状態の中でナチズムが台頭した。しかし、その勃興の少し前に、ルター主義的プロテスタンティズムの沈没がある。宗教的危機、宗教的空白と経済的な危機が重なったときに、真の危機が起こる。その危機がドイツを社会的、歴史的狂気へと導いた。
 現在のフランスはそこまでは行っていないものの、宗教的、経済的危機にあり、シャルリ・エブド事件と今回のテロで、政府もメディアもイスラムのことばかりに執着し、手を打てる経済問題を放置している。今日のフランスは現実を直視せずに逃げているのだ。いい意味の軽さ、生真面目すぎない、自分を笑う精神が生きているのがまだ救いだが、今のフランスは監視、看病すべき状態にある。
 

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「シャルリとは誰か?」
・フランスの多様性とは
フランスは「一にして分割されない共和国」というイメージが固定しているが、これはひとつのイデオロギー的神話に過ぎない。フランスはむしろ二元性を軸にしているのであり、ふたつのフランスがあるのだ。家族構造の伝統から言えば、自由・平等を価値とする平等的核家族の中央部が2/3を占め、権威・不平等を価値とする直系家族の周縁部(南西部一帯)が1/3を占める。そのふたつが一体化したものがシステム・フランスなのだ。いわば南米が中心にあって、そのまわりを日本が囲っているようなもので、規律・秩序と融通無碍が一体となっている。フランスのストをドイツ人記者が取材すれば 「なんたる無秩序!」だが、イタリア人記者が取材すれば「なんと整然とした!」となる。
 問題は周縁部のパワーが増大し、そうした地域では教育の成果が上がり、失業率も低下していることだ。それはヒエラルキー、すなわち不平等を受け入れたからであり、不平等を甘受することで、グローバリズムにも適応している
 周縁部フランスによる権力の奪取がドイツへの追随の理由であり、緊縮財政を分別であるかのように振る舞う。第二次世界大戦においても、ドイツに協力し、傀儡政権に宥和的だったのは周縁部だった。

 『シャルリとは誰か?』はフランス国民へ向けて自らの良心を綴ったものだが、各国で翻訳されたことで、そういう意義もあったのかと気づかされた面もあった。
 たとえば、ドイツ人はフランスのやることは普遍的、開明的、民主的という思い込みがあるが、そうでないことを知らしめた。また、ギリシア、スペイン、イタリアはなぜフランスは自分たちに味方してくれないのかと不可解に思っているが、今はもうそんなフランスじゃないことを示した。

 現在トッドはフランスのメディアの要請には一切応じていないが、ドイツの新聞には、今のフランスはヴィシー、ペタンのフランスなのだと語っている。
 ドイツ・フォビア的に言われるが、個人的にはドイツ人の友人も多く、単純なドイツ嫌いではない。アメリカに関しても同じ。フランスの物の考え方はすこぶる普遍的だがドイツは違う、と言っただけで、ドイツ非難のように言われてしまう。
 同化主義は粗暴ややり方ではダメ。フランス式は日本には向かず、最悪だろう。

 移民の国はたくさんあるのに、なぜひとつの家族形態が支配的であり続けるのか?
 フランスの謎。なぜふたつのフランスが混じらず、それぞれ恒常的であるのか?
[仮説]
 政治や家族のあり方を決定する価値観は希薄な価値観である。だからこそ、影響力を持ち得る。すなわち、移動すると移動先の価値観に染まり、テリトリーごとに価値観を共有。
 精神分析的解釈による、家族の中で伝統的に植え付けられていく家族的価値観だとしたら、地域の価値観は維持できない。
 これは集団的価値観であって個人を決定づけるのではない。国民性による決定ではない。
 人類は本質的に異なるのではなく、多様な価値観の中での普遍性を持っているのだ。

 テロとの戦いということで、フランス政府が憲法に書き込もうとしていること。
 テロ犯が二重国籍の場合、フランス国籍を剥奪する。
 世論調査では賛成が多数(85%)だが、法律家などからは反対の声が。

 ネオ共和主義、私はシャルリ派をヴィシー政権になぞらえたことで、フランス首相がトッドを大新聞で名指しで批判。トッドは首相のオプティミズムはペタンと同じだと指摘。政府がテロリストの国籍剥奪を持ち出したことで、フランスの教養人は、これは「ユダヤ人の国籍を剥奪し、結果的に収容所送りにしたヴィシー政権と同じだ」と気づいた。<ユダヤ系であるトッド氏が、今、イスラム系に対して行われようとしていることは、ユダヤ人にしたことと同じじゃないか、と声を荒げたときが、ヒロキ、いちばん心が震えました。>
 フランスにはマグレブ系300万人の二重国籍者がいる。そういう人がテロリストになったとして、フランス国籍を剥奪するという脅しに何の意味があるのか?
 その実行効果とは、フランス人の中に異なるカテゴリーを作ることで、これは普遍主義に対する完全な裏切りである。不遇であるという感情をすでに持っているイスラムの若者に、さらなる不信感を抱かせ、むしろイスラム過激派に走ることを促す。
 テロとの戦いなどと言って、デモンストレーションに過ぎない実効性のないことをやって、むしろテロリストを募集しているようなもの。

 フランス政府はなぜこんなことを?
1. バカだから。
2. 賛成派は無意識に緊張の悪化を求めている。そのほうが統治がしやすいから。

トッドはフランスは夜の中に沈み込んでいくのではないかという憂いの中にある。
ただ、フランス社会党の面々はよく知っているし、ディベートをしたこともあるが、本当にバカだから、そんな複雑なことは考えていまい。
<このあたり、トッド氏のエリート意識けっこう剥き出し>

 この後質疑応答となりましたが、講演部分が延びたため、ひとりだけに。
反知性主義についてどう思うか。
『シャルリとは誰か?』に対する反応がまさに反知性主義。フランス首相は遊説で、「説明することは許すことだ」と語った。フランスのテレビもバカ番組ばかり。<日本ほどではないんじゃないでしょうか。> 世界で教育水準が上がっているのに、なぜこういう現象が?
[仮説]
かつて教育は人間を解放するものであり、理性は自由につながっていた。ところが今や教育は社会的成功のための手段、延命策と化していて、教育が恐怖、憎しみ(ルサンチマン)に結びつく。その反応が反知性主義なのだ。
 トッドは目下、教育がどう機能するかを社会的、歴史的に考察中。

 以上でございまする。このまとめに際して、スマホの無料アプリの仏英辞書がフリーズし、これもいい機会かとフランス語の辞書アプリを探して、¥5,800の辞書を買っちまいました。結果、高うついたがな、トッド。いえいえ、フランス語勉学意欲にまた火をつけてくれた講演でしたし、買った辞書、紙だと¥28,000 ! っす。トッドさんのおかげで、いい買い物ができました。
 
 

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帰り道、東京タワーがこんなに近いとは、方向音痴は知らなんだ。

 

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慶應の名のつく商店街ですけど、主に仕事帰りのサラリーマンで賑わっている感じ。田町ってよぐわがんね。

 

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この餃子屋さんは入ってみたかった! 餃子定食とん汁付き ¥700! でも、中をちらと覗くと、カウンターのいちばん手前に〝彼女いない歴全人生〟みたいな男性が座っており、ガラガラと引き戸を開ける勇気が出ませんでした。

 

 

シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 (文春新書)

講演のちょうど1週間後に購入。

冒頭数ページしか読んでないけど、おもしろいっす。トッド、いろいろ読まなくちゃ。って、読むものありすぎで人生がもう足りなさそう。

 


 

垂直落下中

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近所の公園です

 

今回の塾の課題は

 ①2015年をふりかえり、あなたの印象に残った本、映画、テレビ番組、展覧会など(ないしはそれに類する作品)を1〜2点を取り上げ、ご紹介ください。

 ②2015年をふりかえり、印象に残ったニュース(1〜2点)についてお書き下さい。身の回りで起きた出来事、個人的な体験などもかまいません。

 ★①②とも、ベスト1でもワースト1でもかまいません。

 

 ということで、私はやはり自分の身に起こった人生最悪の出来事について書かざるを得ないというか、それを書くこと意外考えられなくなりました。

提出したのは

 

垂直落下中

  私ってなんだか幸せな人生を送りそうな気がすると、根拠なく思っていた脳天気力に翳りが見えてきた昨今、なんとかなるさ〜と脳天気を肩代わりしてくれていた人が、あっという間に死んでしまった。私より先に死んだら殺すと、常々脅していた甲斐もなく。

 しゃがみ込んで助けてー!と叫びたい、でも、叫んでも誰にも私を助けることはできないとわかっている、そんな辛い日々が終わり、世界は空っぽになった。逆さにして振っても何も出てこないよ。空虚だ。時間は淡々と過ぎていき、私は垂直落下が止まらない。

 古い友だちが電話をくれて「人生の両端はわからん。なんで生まれてくるんかもわからんし、死んだらどうなるかは死んでみんとわからん」確かに。

 私は基本、人の死は、虫の死と変わんないんじゃないかと悲しい予測をしている。だって宇宙みたいな大きなことに目を向ければ、そう考えないと辻褄が合わない。プツンと儚く私たちは終わる。

 けれどもそこで思い切れるような潔い人間でもないので、勝手なイメージはある。私たちの世界は水族館の水槽のような分厚いアクリルのドームに覆われていて、死者たちはそこにはりついて生者を眺めている。よほどの事情がない限り、お岩さんほどのひどい目に遭わない限り、そのドームを突破することは許されない。逆に現世に興味を失って、ドームから離れていく死者もいる。きっと彼はドームにぺたりとはりついて、私を見ていてくれるはずだ。ただ、見守っていてねとは言いたくない。そんなふうに、もう私ら別種のもんです、とは認めたくない。

 カート・ヴォネガットの『ジェイルバード』では、死者は自分の好きな年齢になれる。天国で主人公は〝風格は備わっても、まだけっこう色気のある〟44歳なのだが、彼の父はなんと9歳のいじめられっ子、母は16歳の少女で彼や父のことなどまったく知らない。いやはや。  私は今の年齢がいい。彼も亡くなった年齢で、ふたりで人生の続きをしたい。ふたりでおじいさんとおばあさんになりたい。でも、死者は年を取れない。『ジェイルバード』でも地上で経験した年齢以上にはなれなかった。彼は永遠におじいさんになれない。

 もう長くは生きられないと宣告された人の、唯一の望みは海へ行くことだった。けれど病状の進行は速く、ただひとつの望みさえ叶えてあげられなかった。

 12月、私は彼が世界でいちばん好きだった場所で、ダイバーにとってこれ以上ないと思えるお弔いをした。「私が死んでも誰もこんなことしてくれないよなー」とつぶやくと、途中から合流してくれた友だちが、どちらかが先に死んで、そのとき残ったほうがまだ元気で潜れたら、相手のためにやってあげようよ、と言ってくれた。

 彼を海に還して、一区切りがついて、すべてはそれからだと思っていたけれど、区切りなどつかず、何も始まらず、というか始めず、始める気にならず、ひたすら自分に優しく野方図に暮らし、ときどきそんな自分にうんざりしている。いつまでもこのままではいられないけれど、消えて亡くなることは少し怖くなくなった。

 

 まとめているうちに当初よりだいぶマイルドになったのですけれど

なかなか楽にはなれませんね。つか、全然楽になってない。

現実感がないまま、ぼーっとしております。

もうインド行って、毎日カレーを食べて過ごそうかなあ、なんちゃって。

その前に

来月は(もう明日からだ!)毎日の整理整頓で家中がどう変わっていくか

実験してみたいと思っております。

 

2015年 映画のベスト10

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1.秋刀魚の味

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軍艦マーチの名シーン

 

小津映画ってどれ観たか観てないか、わからなくなりません?

私は代表作はけっこう観ている気でいたのですが

どうも『晩春』ばっか何回も観て

東京物語』は3回くらい観てて

『お早よう』はテキトーに観てて

『戸田家の兄妹』は機内で観ただけで

あんま観てないじゃん!

 

いきつけの美容院の方に

小津代表作はたいていYou Tubeで観られると教えてもらい

秋刀魚の味』を観てみたけど

おもしろいなぁ。

大筋は娘が結婚しました、というだけの話なのに。

女優さんが、こんな人そのへん歩いてたらびっくりしちゃうよ

というくらい美しい。

会社で働いているのも美女ばかり。

岸田今日子のバーのママはお店の営業時間中にお風呂に行っちゃう。

ついこのあいだの日本が微妙に不思議で

何回観ても飽きない。

佐田啓二の「何も考えてない顔」も確認しなくちゃ。

 

2.オペラハット

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田舎の市民オーケストラでチューバ担当のディーズさん。

 

いかにもフランク・キャプラ

まっとうでハート・ウォーミングなストーリーです。

けど、邦題がまったく映画の内容も雰囲気も伝えていない。

原題は “Mr. Deeds Goes To Town ” ディーズ氏町へ行く

で、その通りのお話です。

田舎で楽しく暮らしていたディーズさんにニューヨークの伯父さんだかなんかの遺産が転がり込んで、その豪邸に出向くと、都会のこすっからい小悪党どもが、田舎もんをカモってやろうと手ぐすね引いて待っているのですが、ディーズさんは地に足ついた良識人で、小悪党どもの甘言にまったく惑わされず、仕掛けられた罠にまったくはまらず、幸せをつかみます。めでたし、めでたし。痛快です。でも、ディーズさん、元々田舎で幸せだったんですけどね。

 

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この映画のゲイリー・クーパーはほんと素敵。

背が高くてハンサムでまっすぐな心で賢くて大らかで野の人で。

見ているだけで幸せになれます。

 

3.桐島、部活やめるってよ

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不在の桐島を中心に展開する、まるでゴドーみたいなお話。(ちょび噓)

脚本の見事さを堪能しませう。神木君すでに名優の風格。

通天閣/東出昌大もよかった。

唯一の欠点は

学校中にひとりくらいしかいないレベルの可愛い女の子がいすぎて

ちょっと変。

それを言ったら小津映画だって変だけどね。

また見よう。

 

4.ゴスフォード・パーク

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階級社会というものを豪邸の主人/客側と使用人側でイヴェントを軸に見事に描き出します。

さっすがのロバート・アルトマン

故人もお気に入りでした。

 

5.『円卓』

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私にとって映画『円卓』と言えばこの子だ。

 

やっぱり主役はちょっびイヤだったりもするけれども

いいと思う、映画も。また観たい。

また観たいがいっぱいあって

これから観たいもいっぱいあって

人生で初めて長生きする気力を失っているのに

どうするんだよ、私。

 

6.『ヤクザと憲法

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ブログに書いとります。

がんばれ、東海放送ドキュメンタリー!

hirokikiko.hatenablog.com

 

7.鍵泥棒のメソッド

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こんなおもしろい映画とは思わなかった、のみっけもの。

私は広末涼子が好きじゃないけど、この広末はいいと思います。

あと、殺し屋がものすごくきっちりした人で

きっちりした人って素晴らしいなあと

感心してしまう。

この映画も脚本が見事。

 

8.『マリリンとアインシュタイン

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故人が好きだった映画。

一緒に観たかったよー、と泣きました。

だってオープニングの曲でもう、「この映画私も好きだろ」って思っちゃうのだもの。

ニコラス・ローグだもの、『地球に落ちてきた男』だもの。

唯一、ジョー・ディマジオはちょと違うんじゃないかいと。

やー、あのいかにもヤンキーな人も、あれはあれでいいのかもしれないけれども

どうしてもご本人と比べてしまって

あの基本寂しい感じがないのがちょっと……

まあ、観客はあれこれ言いたいこと言うものでして。

 

9.『ハリーの災難』

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人を食った話です。

お金ないからって、煙草を箱ごと半分に切って

半額で買うし。

だいたいみなさん、死体を前にして反応おかしいよ。

カフカの『変身』的状況。

一方、色彩がすごく綺麗で

アメリカの田舎がすごく綺麗で

(『天才スピィヴェット』もそうだった。監督がアメリカ嫌いでアメリカじゃないところで撮ってますけど。)

シャーリー・マックレーン、めちゃ可愛い。

 

思えば、全盛期、ほぼ毎シーズン、ヒッチコックの新作公開されていたんだよねー。

小津だってそうだよねー。

今度はどんなだろうって、映画ファンはみんな、楽しかっただろうなあ。

 

10.そこのみにて光輝く

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暗い映画です。

綾野剛池脇千鶴がすべてを支えていると語っていたけれど

私にとってこの映画は菅田将暉(写真左)だなあ。

パチンコ屋でライターを借りただけの相手をしつこく「メシ食わしてやるよー」と自宅に誘う。その自宅が廃屋みたいな、小屋みたいなとこで、奥の座敷には寝たきりの父がいて、くだんのメシも、日が高くなって起きだしてきた姉が作ったチャーハンをフライパンごとバンとお膳に置く。

なんでこんな家に人を誘うのだろうって思いますよね。

でも、この子の独特の人懐っこさ

いきなり人の懐に飛び込むジャンプ力がそれを成立させてしまう。

それでいて、ひとつ間違えば人を殺しそうな気配もちゃんとあって

だから刑務所から出てきたばかりという設定も嘘くさくない。

菅田将暉を初めて見たのはNHKの朝ドラ『ごちそうさん』の杏の長男役で

学徒出陣か何かで母と別れる前夜のシーンがめちゃくちゃよくて

なんてうまいんだー、でも、こんなベタな昭和顔では

いくら演技力抜群でも今後主役級の活躍は望めまい

と勝手なことを思っていたらば

別人かと見紛う変身ぶりで大活躍。

というか、あのドラマのほうが昭和に作り込んでいたのかなあ。

光り輝く才能ですね。

このままどんどんいい仕事をしていかれますように。

 

 次点天然コケッコー

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確か主人公の女の子の一人称が「わし」

これがめちゃくちゃ可愛い。

オチもとっても可愛い。

私の大好きな岡田将生は最初から岡田将生だ。

もはやある種異次元ユートピアみたいな話なんだけど

どっかで『円卓』にも通じているよな気が。

こじつけかしら。 

 

2015年 本のベストテン

On Reading

番外のアンドレ・ケルテスの写真集

さまざまな読書する人の姿が収められています。

 

人生最悪の1年は、読んだ本の数も当然例年より少ないのですけれども

 

1.『ゆかいな仏教』橋爪大三郎 大澤真幸

ゆかいな仏教 (サンガ新書)

ええっー、仏教ってそういうもんなんですかー、と目から鱗がボロボロボロボロボロ〜

なんかもう宗教とも思えぬ〜 新書だけど深いっ。

これをお風呂本にしていた私は間違っている。

彼が亡くなったから仏教に走ったわけではなく

これは存命中に読んでおります。

2度も3度も読み返さなくっちゃなのですが、このおふたりのキリスト教本もあるんで、まずそっちかな。

ちなみに、密林がお坊さんを宅配するというのを(それも世知辛い話だけど)仏教界の一部が「宗教の商品化」と非難しているそうですが、ちゃんちゃらおかしい。元祖「宗教の商品化」はあんたらじゃないかい。戒名とかお金でランクつけちゃってさ。この本を読んだ上で自分たちのやってることきちんと説明してほしいわ。もちろん、世の中には立派なお坊さんもいてはるとは思うし、大学の同級生でとってもいい人がお坊さんなんだけど。

 ほんの数日だけれどタイの田舎の村で過ごしたことがあって、村のお坊さんのひとりは親と喧嘩して家出して、数年後に都会から子持ちの女性を連れ帰ったけれど、結局その人は貧乏農家がイヤで子供を連れて逃去り、彼は傷心の出家。もうひとりはシンナー中毒で村の入り口の大事な祠を破壊した元不良。もちろん村人全員がそういう事情を知っているけれど、出家してしまえばみんなお坊さんとして敬意を払い、お供えをする。評価は「食べ物に文句言わないのがいい」(タイのお坊さんはお供えで集まったものを食べています。自分で手を下すわけじゃないので肉も魚もOK。煙草もOK。逆に絶対ダメなのはお酒&女性。厳しいお寺だと女性とは接触はおろか会話も、目を合わすのもダメ。)傷心出家の彼はお坊さんでいるあいだに高卒の資格を取って(なんかそういうシステムがあるらしい)警官を目指すのだそうです。本当に仏教が生活に根づいてシェルターになっているんだなあと思いました。そらタイの仏教だって、いいことばかりじゃないんだろうけどね。

 

2.『地図のない場所で眠りたい高野秀行×角幡唯介

地図のない場所で眠りたい

 

タイトルから猛烈ロマンティックでシビレる探検家ふたりの対談集。

ちょっと常軌を逸した探検ぶり。

亡くなった彼が本書も含めて、おふたりの本を繰り返し読んでいました。

海外旅行、というか実質ダイヴィング合宿だけど、それも私が強引に勧めて始めたことで、やってみたら大好きになったけれども、到底ひとり旅すらするようなタイプじゃなかったのに、どうしてあんなにこの人たちのハードな探検に惹かれたのだろう。

しかも、命が消えていこうとするときにさえ。

我が家にはおふたりの著作がどーんと揃っているので

今年はたくさん読んで彼の心の謎にも迫りたいと思います。

 

3.『ぼくらの民主主義なんだぜ』高橋源一郎

ぼくらの民主主義なんだぜ (朝日新書)

 

 

ものごとをていねいに解きほぐして柔らかく考える道筋を示唆してくれる人として

私は高橋源一郎を圧倒的に信頼しています。

天皇制は日本にぜひとも必要というのなら

公選制にして高橋源一郎がなればいいと思うよ。

がんばれ源ちゃん天皇

ってなんかすごいこと言っちゃいましたかしら。

 

4.『円卓』西加奈子

円卓 (文春文庫)

 ブログに書いとります。

hirokikiko.hatenablog.com

 

5.『うほほいシネクラブ』内田樹

うほほいシネクラブ (文春新書)

 

帯に〝怒濤の187本! 圧巻の400頁 !! 〟 

読み応えたっぷりで、鑑賞ガイドとしての実用性も高し!

ドッグイア(本当はこれ嫌いだけれど、お風呂本だったから手元に付箋がなかったのだね)部分をいくつか紹介いたしますと

 

パッセンジャーズ

 飛行機事故で奇跡的に生き残った5人の乗客と、そのトラウマ・ケア担当のセラピスト。「大どんでん返し」の後味は意外なほど切なく、爽やか。

——こりゃ観たくなりまする。

 

黒澤明『乱』で主人公が死んでほっとした(もうあの芝居を見ないですむから)、から仲代的=新劇的=デカルト的演技術の対極としての、怖いくらいに上手い俳優タランティーノの「とってつけたように不自然」な喜怒哀楽の演技(こそが上手さの所以)へと話は発展し、さらに三種類しか表情のない佐田啓二の〝寒気がするほどリアリティがあるのは「何も考えていない顔」〟 〝これは『秋刀魚の味』で佐田啓二以外誰もできない壮絶なのを観る事ができます〟ときて、これはもうまたまた『秋刀魚の味』を観たくなります。

 

サム・ペキンパー『鉄十字軍』(邦題『戦争のはらわた』)

〝ロシア戦線の悪夢のような後退戦を「ドイツ軍の側から」描いた映画〟

〝戦争は無意味である。だが、そこで死ぬ人間は「自分の死が無意味だ」ということを受け入れるわけにはゆかない、といういちばん「あたりまえ」の事実を語ることがいちばんむずかしい。この映画はそれに成功した希有な例である〟

——必見感ぷんぷん。

 

『バルカン超特急』

 クリケット以外のすべてのことに対する組織的な無関心ゆえに、ふたりの紳士然とした英国人が、意外や危機的状況下で適切な判断と果断な行動を誤らない、のだそうで、その紳士見たし。

 

『オープン・ユア・アイズ』

〝不条理なまでにご都合主義的なせいで、映画が逆にある種のリアリティを獲得するということがある。「ありえなさ」が現実の不条理と同程度に不条理だとそういうことが起こる。〟どんだけご都合主義やねん、という興味で見たくなる。

 

ちなみに本書の『サイコ』の項で挙げられていた内田樹氏の二大愛読書『体内の蛇』と『オリジナル・サイコ』(ともにハロルド・シェクター著——〝20世紀アメリカを代表するバカ学者なのかも〟by 内田樹)をさっき密林市場で注文してしまいました。 とほ。

 

6.『野火』大岡昇平

野火 (新潮文庫)

 

やっぱり心に残るのは、あの不思議に明るい開放感。

ブログに書いております。

hirokikiko.hatenablog.com

 

7. “A Grief Observed” C.S.Lewis

A Grief Observed (English Edition)

 

ナルニア国ものがたり』で有名なC.S.ルイスが妻を失った悲嘆を綴ったもの。 

『悲しみを見つめて』のタイトルで翻訳もありますが

原文のタイトルのニュアンスはもう少し固い感じ。

内容も悲しみを語るわけですから冷静、というのとは違うけれど

感情の吐露とも違う。

まさに自らの悲嘆を観察(observe)している趣があります。

ルイスと私ごときを比較するのも僭越ですが

年を取ってから相手がガンとわかっていて結婚したという共通点があり

神学者と信仰なき者という決定的な違いも

神学者でありながら神に対して真っ向から怒るルイス

(存在することは認めるけれど、なぜそんなに性格悪いんだーっ的な)

に妙に共感できたりして

そのほどよい理屈っぽさがスパイスとなって

理屈っぽい私の心に沁み入ります。

 

痛いほど生々しい悲しみと

その中での発見が交錯し

 

喉が渇き切ったときにごくごく飲んでも、飲みものの美味しさはわからない。

会いたいと激しく思う心が鉄のカーテンを引いてしまう。

会いたいと叫ぶ声で死者の声がかき消されてしまう。

ふと悲しみが軽くなったときにこそ、バリアがなくなり

死者のそこはかとない気配が出現する。

 

そんなふうに書く一方で

 

悲嘆は長く続く谷のようで

曲がりくねった角をひとつ曲がるたびに

まったく新しい景色が現れる

 

と悲しみの際限ない訪れを記し

 

君が去るときにどれだけのものを奪っていったわかっているかい?

私の過去、ふたりが共有しなかったものさえも剥ぎ取っていったことを

 

と嘆く一方で、

 

電話や電報で手短に用件を伝えてくるような

思ってもみなかったようなビジネスライクな形

それでいてとても親密で明るい

死者との交信

 

を語りもします。

 

その悲しみに共鳴し

発見に力づけられました。

また読み返そう。

 

8.『炎上する君西加奈子

炎上する君 (角川文庫)

 

短編集の西加奈子は長編とはかなり異なるテイストでした。

いちばん好きなのは表題作の「炎上する君」

今、ぺらぺらと読み返してみましたが、いや、かなり好きです。

つか、浜中、手芸をやめた(あり得ないことだけど)玉坂部長みたい。

なのでこの一編を始めからきちっと読み返したら、感動したなり。

  

9.『戦争プロパガンダ10の法則』アンヌ・モレリ著 永田千奈訳

文庫 戦争プロパガンダ10の法則 (草思社文庫)

 

ブログに書いとります。

hirokikiko.hatenablog.com

 

10.『魔王』伊坂幸太郎

魔王 (講談社文庫)

 

これまたブログに書いてます。

hirokikiko.hatenablog.com

 

次点ナイルバーチの女子会』柚木麻子

ナイルパーチの女子会

 

読みだしたら止まらなくなって一気読みした作品ですが

不思議と残ってない。なぜだ?

これを読み返そうという気持ちにはなれないので

柚木麻子の別の作品を読んでみませう。 

 
 
 

リザとキツネと恋する死者たち

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 本日シネマカリテで観てきました!

 予告編を観て、即、チケットをネット購入!

 


映画『リザとキツネと恋する死者たち』日本版予告編

この予告編を観たらもう、映画館へ走っていきたくなりますねえ。

 

本編期待に違わぬ、私の好きなものてんこ盛り〜。

映像あくまでも美しく、隅々までキュートに作り込み。

ああ、懐かしのインチキ昭和歌謡 VS フィンランド歌謡。

ベタなダンスっ!

『アメリ』をもっと邪悪にしたよなテイスト。

東欧映画ですので(北欧に準ず)いわゆるハンサムな男性は一切出てきません。

ギリ、トミー谷???

判定はお任せいたします。

 

ハンガリーにもこういう人いるのですねー、

首都がブダペストですものねー、

監督、あなたのことですよー、素敵♡

 

来週また観に行きたいくらい好きっ。

 

シネマカリテがまたこぢんまりした素敵な映画館で

たとえばトイレはドアが開くと “vacant” の札がパタンと立ち上がる

憎いぜ。

今日は水曜サービス¥1000 day ということも大きいのでしょうが

私の列(D)から前は満席、後ろ3列も空席はほんの少しでした。

 

11時20分の回で観て、こんな早い時間に新宿にいるのも珍しいから

新宿御苑にでも行ってみようか、彼と一度行こうと行っていたのに

行かないまま死んじゃったよ。

けど、結局は御苑ならぬ紀伊國屋書店散歩。

レアもの発見!

やや長めの髪に臙脂色のベレー帽、ベージュのコートの襟元にボータイの

デザイン学校生か、みたいな男の子が

ミリタリー・コーナーみたいなとこにいたんだけど

なんとその腰に下がっているのは

ケルトン(この言い方も懐かし)のケースに入ったウォークマン

カセットテープが回っているのを肉眼で見たのはいつ以来だ?

ちゃんとイアフォン耳に入ってたし、ほんとにあれ聴いてたんだよなあ。

絶対わざとでしょ、わざと。凝ってるというかどういう方向のおされだよ。

でも、『リザとキツネと恋する死者たち』に合ってる!

 

相変わらずブサイクやな

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朝、目を開くとたいてい彼のほうが早く起きていて

「相変わらずブサイクやな」

「違うね、おビジンだね」

これが我が家の朝のはじまり。

病状が進んでつらくなると

朝の「ブサイクやな」が出なくなった。

だから「相変わらずブサイクやな」と言われると

今日はそんなに調子悪くないんだとほっとした。

やがてさらに病状が進んで

2階から1階のトイレへの上り下りがきつくなり

1階の和室に介護ベッドを入れて

彼は1階で眠るようになった。

「相変わらずブサイクやな」で1日が始まることは

もうなくなった。

私は大切なものをひとつ

永遠に失った。

 

人生最悪の寂しい大晦日があと4時間ほどで終わる。

コンニャクを買い忘れた

まぬけなおでん。

になぜか赤ワイン。

2015年12月31日がずっと、人生最悪の寂しい大晦日でありますように。

 

みなさん、よいお年を。

 

今から彼が好きだと言っていた映画『マリリンとアインシュタイン』を観ます。

まだ観たことがないのです。一緒に観られたらよかったのにね。

虚人の星

虚人の星

 

塾の課題で、初めて島田雅彦の小説を読了。

以下が提出したものです。↓

 

 

プロパガンダ小説の殺伐世界

 

 島田雅彦『虚人の星』は、スパイへと育て上げられていく多重人格少年の物語と誰かさんを思わせる世襲ボンクラ首相の物語が交互に展開し、ついには交錯して、戦争へと突き進もうとする日本にブレーキをかけるというフィナーレを迎える。

 タイトルの〝虚人の星〟(→巨人の星)から〝レインボーマン〟、〝ドラえもん〟のサブカル・アイテム、主人公の〝星新一〟を始めとする〝宗猛〟、ハンチントン大統領(舞踏病 / 文明の衝突』の著者)、メニエル国務長官アルツハイマー大統領補佐官など特異なネーミングが目を引くが、それらが有機的に結びついて小説に何かしらの意味をもたらすかと思えばそういうわけでもない。

 物語の鍵となる〝多重人格〟にしても、七重人格星新一は〝病人〟の自分以外に6つのベタな類型を抱えているだけで、むしろ、それぞれの「人格」が〝理性〟や〝本能〟、〝善意〟、〝社交性〟などキャラクターの一面を担っているに過ぎないようにも見えるし、首相の〝のび太 / ドラえもん〟に至っては「拡大延長線上」といった感じでしかなく、腹違いの弟であると判明した星新一の説得によって〝のび太〟に引き戻された首相がいきなりとっても民主的な談話発表に至るのは、とってもとっても無理がある。結末はダブル夢落ちだが、ひとつ手前の夢オチで止めておいたほうが、ちょっぴり『ドグラ・マグラ』でまだしもよかったのでは。最後はなんだか、あまりにベタ。これ純文学っすか。じゃなくてもいいけど。

 3分の2くらいまで読んでくると感じるのだ。この小説には何かが欠けてない? まずここには〝人間〟関係がない。なんらかの利害関係で結びついた人たちはいても、〝情〟がない。そして、知覚に訴えかけてくるものがない。この小説の匂いは? 音は? 肌触りは? 唯一視覚と味覚が結びついて浮かぶのは、星新一が父に捨てられた場であり、再会した父と訪れる場である寿司屋だが、ここで主人公が思い出そうとするのが9歳の自分が〝何貫の握りを平らげたか〟の「数」であることも、なにやら象徴的だ。

 そして、その殺伐感を決定的なものにしているのが、ほぼ〝ハニー・トラップ〟か〝愛人〟としてしか登場しない、本書の小説世界における「女性」のありようだ。エリート官僚矢野真美がスパイになった動機を〝日本をアメリカに安売りする官僚たちが許せない〟と答えても、(パワハラ・セクハラ)〝上司たちに報復するために、(中略)個人的な恨みを晴らすのに中国政府を利用するとは、その癒し系の顔の裏に潜む闇は相当深い〟と星は勝手に決めつけている。あんたのミソジニー女性嫌悪)の闇のほうがよっぽど深いって。

 プロバガンダ小説が悪いとは少しも思わないし、作家の切迫した危機感はひしひしと伝わってくる。世界情勢分析も説得力がある。ただ、天下国家を憂う一方、この殺伐たる小説世界はどうよ、と私はそっちも心配になる。

 

島田雅彦という作家は基本こういう芸風なのだそうです。

人物は概ね図式的で、引用と企みの王者だって。

その引用と企みってやつが、この小説では独りよがりにしか感じられなかったなあ。

これが芸風なら、小説はもういいか、と思ってしまう。

そういえば、実際に島田雅彦ファンという人と会ったことがない。

どこにいる、熱く島田雅彦愛を語るファンよ〜。